中国編第3回 北京周辺


清王朝の故宮

 西安駅の北京行きの列車へは長い列ができていた。今回は前回よりアップグレードして柔らかい寝台のコンパートメント。ところが上段の寝台だったので景色が見えない。しばらく通路にいたがじゃまになるので下の人の寝台にこしかせさせてもらった。中国人の年輩の夫婦ともうひとりはおじさん。四人で「地球の歩き方」を見せての筆談となった。夫婦はがんこおやじと、うまくやっている奥さん。この二人のケータイがしょっちゅう鳴った。おじさんにはビールを注がれた。
 北京は青島や西安と比べ物にならない大都会だった。タクシーも高速を走ると結構料金がかかる。いくつかまわって英語ができるスタッフがいる京華飯店というホテルに。インターネットをしている外人泊まり客が見かけられた。バーではヨーロッパ人のおっちゃんが同じくヨーロッパ人の女の子を口説いているようだった。とりあえずバスに乗り天安門広場へ。凧を飛ばしながら土産物として売っている。毛主席記念堂の前の革命の像がポジティブこの上ない表情をしているのが印象的だった。よくニュースとかで見ていた毛主席の巨大肖像画は近くでみるとエアブラシかとも思う程ソフトフォーカスだった。天安門に上るのはハイセキュリティを通る。しかもセキュリティゲートが男女別々なのが不思議だった。
 故宮はさすがに見ごたえがあった。一つの都市といってもいいぐらい広い。「ラスト・エンペラー」のシーンを思い出しながら歩いて、スケッチをしたりした。このような古風な朝廷が20世紀まで続いていたのだからおもしろい。SARSで少ないながらも白人と日本人の旅行客がみられた。しかしスターバックス・コーヒーが故宮に入っていたのには閉口した。故宮北門から出てフートンと呼ばれる昔ながらの住宅街を歩いた。小さな路地に迷い込んで歩いていると、僕の地元、滋賀県野洲町大字野洲の路地にどことなく似ていて懐かしい感じがした。道端で散髪している人もいた。
 翌日はバスやワゴンを乗り継いで、北京原人が発掘された周口店猿人遺跡を訪れる。途中は工事労働者達のためか、まずしそうな屋台がいっぱいあった。遺跡は観光客がほとんどなく、静かな発掘跡を歩いてみた。ひょっとしたら自分の遠い祖先かも知れない人々の触った土にそっと触れながら、当時の人の生活空間を自分も体感しようとしていた。当時の人々はどんな時間の感覚を持っていたのだろう。
 その日の夕方北京にもどり天壇を訪れた。天壇南側広場には凧を上げている人が多く、夕暮れの空に様々な形の凧が高く舞い上がっているのをしばらく寝転がって眺めていた。周りには広場の中心を走るつるつるの石に沿って何組もの人がくつろいでいた。その周りを凧やその他のスポーツをしている人が行き交う。後歩きの人をよく見かけた。アメリカでも日本でも現在こういう気楽さはない。日本では昔はあったのだろうが。天壇はその紫色の屋根瓦と丸い形が独特の美しさを持っていて、夜はライトで照らし出され「未知との遭遇」のラストシーンを彷彿させた。
 翌朝ホテルで話したのはケニア人だった。中国語を勉強しているかれは漢字も書けた。彼によるとナイロビと北京は同じような物価らしい。彼に万里の長城への行き方を教えてもらった。あいにく長城は小雨だった。父親がいつも見ていたNHK中国語講座のテーマ曲と共によくテレビで見た雄大な景色は霧でおおわれ、全く見えなかった。それでも頑張って一番高いところまで昇ったところで、写真集を買わされてしまった。100元を30元まで値切ったが、後で会った中国人の学生によると、それでも20元は払い過ぎだそうだ。長城からの眺めは下山して見せられたパノラマ映画で満喫するはめになった。帰りのバスで一緒になったのは中国人学生3人。最初「地球の歩き方」をみせてくれと言ってきた。一人は少し日本語を話せた。もう一人は英語がかなり上手かった。彼からは中国が共産主義から資本主義に移行している現状の生活についても話が聞けた。「地球の歩き方」を見ていたもう一人が、地図上で台湾が中国の一部になっていないことに文句を言ってきた。彼らは台湾は中華人民共和国の一部だと主張する。確かに国連は亡命した蒋介石が起てた台湾を独立国家と認めているが、中国本国の人々は同意していないようだ。
 夜行に乗るためホテルをチェックアウトしてしまっていたから、その晩はシャワーが浴びられなかった。そこで浴足センターに入ってみた。日本の銭湯のようなところだが、違うのはアテンダントがあちこちに待機していて、大浴室にテレビとマッサージ台もあった。18元という入場料が示しているように中国人にとっては贅沢な場所になるようだ。
 北京駅から泰山(タイシャン)行きの空調寝台車はきれいで快適だった。となりも上の寝台も皆女の子だった。となりの女の子はとても可愛く、案の定、他の男が遅くまで話しかけていて、うるさくてあまり眠れなかった。





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