不思議な少年ビクトル

エクアドルにバーニョスという有名な温泉街がある。急な山の斜面に囲まれた小さな村だが、エクアドル中から温泉につかりに人々がやってくる(日本と違い、皆水着を着てだが)。ここに滞在して山道を散歩していた時、一人の少年が話しかけてきた。年は9〜10才といったところか。よくいる貧しい風采の子共だが、図の様に少し変わった服装をしていた。名前はビクトルという。一緒に歩いて話していると年の割になかなか賢い子だなと感じた。よくものを知っているし心地よい話し方をする。もの乞いではなさそうだし、泊まっているホテルに招いた。本当に年齢よりもずっと大人びた話し方をするし礼儀正しい。普通の子共とは全然違った印象だった。いったいどこの子だろう。 夕方、ビクトルを家の方まで送っていった。最後は僕と一緒にいたがり、家に帰りたがらなかった。お金がほしいともちらりと言ったが、家の方に消えていった。やはりただのお金ほしさの貧しい少年だったのだろうか。いや、僕にはそれ以外の印象の方が強い。何だか人間以外のものに会っていた様な気がしてならなかった。狐か、星の王子様か、、、本当に今の方向に彼の家があったのだろうか。 僕は彼の写真を撮っていたので数ヵ月後現像して見た。ところが同じフィルムを間違って2回使ってしまったので、すべてが2重写しになっている。彼の顔は見事に他の風景の下に消えてしまっていた。彼の存在はいよいよ僕の記憶の中だけになってしまったのである。




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