ナスカの地上絵とミイラ

ペルーという国は、当時出会うどの旅行者に聞いても、慢性的な経済困難から治安が非常に悪く、人々も暗く沈んでいる。しかもコレラの発生で最悪の状態だという話だった。僕と一緒にいたカメラマンのK君も護身用として常に1脚を離さず、緊張して旅行した。ところが一旦入国すると、人は楽しいし食べ物もうまい。そんな妙なコントラストがペルーの魅力だったかもしれない。
首都リマから南へ300km程行った地上絵で有名なナスカにやってきた。セスナを飛ばして巨大な地上絵を上空から見ることができた。かなり広範囲に渡って様々なイメージが大地に刻まれている。動物から幾何形態まで色々ある(これが何のために描かれたかはまだ未解決だ)。セスナは何度も旋回するので一緒に乗ったドイツ人は酔ってしまっていた。飛行から町に戻ると前日出会って仲良くなった地元の家族と思われる3人(男性、女性、娘)が待っていた。僕たちを郊外のあちこちに案内したいという。車はタクシーだったし、高額のガイド料をせびられると思い、断わったがどうしてもというので少ない額で話を決め車に乗った。車はナスカ郊外の遺跡などを巡る。古い地下水道の跡など、ガイドにも載っていないような遺跡がごろごろ。女性と娘は遠足気分ではしゃいでいる。

古い地下水道


ミイラの家族とともに

そのうち砂漠の中に座っている人影が見えた。近づいて見ると皆ミイラだった。墓泥棒に荒された墓地らしく、掘り起こされたミイラや白骨がさらけ出されている。しかも墓泥棒が意図的に配置したのだろうが、衣服をつけたままのミイラが家族の様に座っていて、あたかもそこでまだ生活しているようだ。まだ髪の毛も肉も残っていて、今にも動き出しそうである。彼等は自然にいつものようにそこにいるうちに何百年も過ぎたいう感じだ。僕たちは(女性や子供も含めて)こわい気持ちも通り超してこの聖なる(?)地でふざけて記念写真を撮りあった。超有名な地上絵を見るよりもずっと不思議な体験だった。
このプライベートなツアーからナスカの町へ帰って来た僕たちはこの男性とドライバーに約束通り金をわたしたが、もっとほしいと案の上言われた。固く断わったが、この男はほかに職がなくこうやって旅行者に近づいているのだろう。僕たちがこの家族と半日楽しい思いをしたのも事実だし、彼等も罪がない。歴史物の宝庫的なこの国での複雑な現在の状況である。それでもペルーでの人との出会いは楽しかった。




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