メキシコシティ、アミーゴ達の家


どれも傾いているメキシコシティの教会

 ちょっとした気の迷いから、ベイエリア滞在の後、中南米を一年以上も放浪することになったが、長期旅行慣れしていなかった僕はあちこちで盗難などの被害にあったりしている。中南米は貧しい国が多く、町中で、バスの中で、現地人による盗難には気を付ける、というのが旅行者の基本的な心構えの一つだった。ところがこんな形で荷物がなくなるとこもあるのだ。

 メキシコシティに長距離バスで着いたのは夕方。「地球の歩き方」にでていた日本人旅行者の集まる「ペンション・アミーゴ」を探していてたどり着いたのが西洋人旅行者に人気のユースホステル「カサ・デ・ロス・アミーゴス」。日本人はいなかったが、長期で滞在しているヨーロッパ系の旅行者が多く、ここに何日か滞在することにする。ここで知り合ったものと情報を交換したり、旅行を続けたりして、旅行者のインターセクションとして機能している。中にはここで出会ってその後結婚したスイス人とオランダ人のカップルもいる。ここで出会った旅行者は、その後、他の地でも会ったり、その後も手紙を書きあったりしている。
 寝る場所は十人部屋のドミトリーで、毎晩みんなで飲みに出かけると、いつも皆国籍が違う。テーブルを囲んで交わされる会話は英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、中には四カ国語以上話せるヨーロッパ人もいた。英語さえもほとんど聞き取れなかった僕もうまく会話に入れてもらって、ここの雰囲気が印象的だった。一週間程の滞在中、何人かメンツが変ったが、気の合うヤツもいれば、イマイチ馬が合わないヤツもいた。
 ロサンゼルスからだというニコは自分で作った彫刻を売って旅行のお金を作ったという。日本人の彼女の写真を見せたりして自慢話をしていたが、何かどうもしっくり来なかった。本当に信用してよいのかどうかわからなかった。ある日の昼間、ちょっとドミトリーから出た後戻ってくると、ベッドの上においておいた僕のデイパックがない。そこに独りで居たニコに聞いてみると、同じ部屋のアルゼンチン人がふざけて隠したのじゃないかと彼のパンパンに張ったバッグをさして言う。言われたまま、他の部屋に彼を探してみた。彼は見つからず部屋に帰って来るとニコもいなかった。それからちょっとして、カサ・デ・ロス・アミーゴス全体が騒いでいた。ニコが何人もの泊まり客から物を盗んで逃げたことが判明したのだ。彼を最後に町中で見た人によると、確かに僕のデイパックを下げていたという。あの時、部屋に独りでいたニコがやはり犯人だったのだ。僕以外にもお金やらをとられた者が何人かいた。彼は宿代も何日分も滞納していたらしい。彼には何日も前から旅行を続けるお金はなかったのだ。そういえば、ここ二、三日飲みに出かけても彼は何も注文していなかったことを思い出した。彼はここ何日か僕達からこういうスキをねらっていたことになる。こんな人間と一週間も寝起きを共にしたと思うとぞっとした。おそらくいままでからこういう風にして彼は旅行を続けているのだろう。メキシコ人ではなくアメリカ人旅行者にものを取られるとは予想してなかった。アミーゴ達の家には色んな種類のアミーゴがいたのである。
 デイパックの中には僕の大事なカメラが入っていた。カメラはその後いくつか買い変えたがこれに勝るものはない。フィルムごととられたのでこの時の写真もほとんどない。僕はここで知り合ったベルギー人のテアリーとメキシコシティを去った。中南米の旅はこれからまだまだ長かった。


泊まり客との毎晩の宴会





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